治療ポイント
小児糖尿病は一つの病気ではなく、いろいろな原因によって生じた不均一な疾患で、1型、2型ともに発症する。
病態と病因
インスリン分泌の著しい不足により、著明な高血糖(高血糖による口渇、多飲、多尿、体重減少)、および脂肪分解の亢進によるケトン体(aceton, acetobutylate, B-hydroxybutylate)の上昇が特徴である。病因論的分類は不明なことが多かったが、現在は膵細胞の自己免疫の証拠として、抗膵島抗体(ICA)、抗インスリン自己抗体(IAA)、抗GAD抗体の存在がある。自己免疫機序による膵臓細胞破壊はHLA(Human leuko-cyte antigen)に関して発症している。通常、空腹時血糖は126mg/dlを超え、尿糖、尿ケトンが陽性になる。インスリン欠乏の程度を知るために、血中C-ペプチドが参考になる。1型糖尿病の人種での発生率の違いは顕著で、本邦における小児の1型糖尿病の発症頻度は、スカンジナビア諸国と比べ1/20〜1/30ときわめて低く、対象人口10万対1.5〜2.0と報告されている。また、発症時の年齢は男子で10〜14歳、女子で9〜13歳と思春期に一致したピークがみられる。
治療の方法
治療の原則は、食事療法、インスリン注射と運動療法である。小児期および思春期の青少年に最適の管理を行うことは非常に難しく、時間を要することである。医師のみならず、糖尿病専門看護婦(dia-betic nurse specialist)、療養指導士、栄養士、精神心理の専門家が含まれている必要がある。チームで糖尿病治療、合併症、小児期および思春期の発達を考えて医療を進めていかなければならず、そのためには患者教育が重要である。教育の方針は、
1) インスリン注射を覚えさせ、自己注射できるようにする
2) 尿糖、血糖の自己測定ができるようにする
3) 食事、運動に合わせたインスリン用量の調節ができるようにする
4) 病気の日(sick day)のケアとケトアシドーシスの予防ができるようにする
の4点があげられる。教育の一環として、教育入院や糖尿病サマーキャンプが行われている。厳密なコントロールは、強化療法(頻回に血糖測定を行い、その結果からインスリン量を調節し、1日3回あるいはそれ以上インスリン注射をする)か、インスリン皮下持続注入(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)による。強化療法によって、正常血糖レベルとはいかないが、平均血糖の低下とHbA1Cの低下は明らかである。しかし、低血糖の既往のある患者は重症低血糖が増し(重症とは本人がが対処できない状態を指す)、体重増加と肥満をもたらす。また、持続皮下注射は注射部位の感染とケトアシドーシスの増大をみることがあるので、慣れた医師と熟練した患者に適応するべきである。患者はインスリン使用について教育を受け、インスリン量を調整する方法を理解し、低血糖徴候の自覚と治療法、食事とインスリン療法、運動と血糖、インスリンの関係について学ばなければならない。インスリン注射には、従来の1日1〜2回打ち(conventional treatment)と、1日3〜4回の強化療法(intensive treatment)がある。
はじめに
糖尿病は不摂生によって生じた病気であるという誤解は、小児において最も困った問題である。
小児糖尿病は、膵ランゲルハンス島におけるインスリン分泌が絶対的に不足したためで、自己免疫疾患が主原因であり、なんら不摂生のためではない。小児糖尿病は、20歳を過ぎたら成人型糖尿病になるわけではない。現在の医療では完治できず、一生小児期発症インスリン依存型糖尿病であり、インスリン治療を必要とする。糖尿病の治療の原則が食事、運動、薬であることは周知であるが、インスリン依存型糖尿病ではインスリンの注射が必須である。食事も、毎日小児に必要なカロリーをきっちり、決まった量を摂ることであり、それは制限する食事、いわゆるダイエットではない。小児インスリン依存型糖尿病の治療は模索中であり、現在日本を含めた世界中で研究がなされているが、絶対というものはない。 糖尿病の長期合併症は成人型も若年方(小児期発症)も同じであり、腎症、網膜症、神経症である。具体的には腎臓が機能しなくなると腎不全になり、透析をしなければならなくなる。網膜症が生ずると失明に至る。神経症は手足のしびれ、感覚の麻痺状態になり、大腿を根本から切断しなければならなくなる。
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DCCTの報告以来、管理がよければ合併症が起こらないことが証明され、オーストラリア、ヨーロッパでも報告が相次いでいる。よいコントロール、すなわち正常に近い血糖にすることであるが、容易ではない。
日本での小児糖尿病の頻度は低く、欧米の1/20〜1/30程度であり、1万人に1人と言われている。そのため、一般ではなかなか遭遇する機会がなくあまり知られていないのが現状であり、誤解されている。血糖を測定し、食事の必要量を計り、1日2〜4回のインスリン注射をしなければならない小児糖尿病の治療は、一般の人から
見ると驚異であろう。この書は、糖尿病教育の一環である糖尿病キャンプの実践を通じて小児糖尿病を理解してもらい、病気を持った子供と接することにより、患者自身、ボランティアを志す人、看護婦になろうとする人、研修医、糖尿病を持った子の両親、さらに療養キャンプを行う人の助けにならないだろうかと考え、まとめたものである。15回のキャンプの経験のまとめであり、実践に則し、絵で見てわかるようにしたつもりである。不備な点が多いが役に立てば幸いです。
高橋 利和
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DCCT=Diabetic Control and Complication Trial